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オタクの本  別冊宝島  1989年刊

オタクの本  別冊宝島  1989年刊

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店長おすすめ本

 

語られる前に、語り始めた人の記録。

 ──「オタク」が名前を持つ前の、最後の次の資料。

  本書『「おたくの本」別冊宝島』は、「オタク」という言葉が定着する直前、まだ自分たちを説明する共通の言語を持たなかった人々の声を、そのまま記録した貴重な一次資料です。後年の理論書や解説書のように整理された視点はなく、そこにあるのは、違和感や戸惑い、居場所のなさを抱えた当事者たちの、生の思考の断片です。

高度消費社会の成立により、若者がすぐに「大人」になることを求められなくなった時代。社会との直接的な接続が見えにくくなるなかで、趣味や特定の対象への没入を媒介として、自らの身の置き場を探そうとする姿が、後に「オタク」と呼ばれる現象として立ち現れていきます。本書は、その生成の現場を、後知恵で整えることなくそのまま残しています。

今日ではオタク文化は市場化され、一般化され、もはや特別に名指す必要すら薄れつつあります。しかし、だからこそ本書が伝える「名づけられる前の揺らぎ」は重要だと思います。教科書には載らなかったけれど、確かに存在していた時代の空気を読むための一冊として、本書は今なお強い意味を持っています。

本書には、「オタク」という言葉を初めて用いた中森明夫氏の文章も収録されています。一見すると、確かに差別的とも受け取れる書き方ですが、その文章のなかには、オタクという存在に対する愛憎の入り混じった感情も感じられます。私の実感としても、この当時オタクと呼ばれていた人たちは、かなり特殊な人たち、あるいは「気持ち悪い人たち」といったレッテルを貼られていたように思います。たとえば「オタク評論家」として知られていた宅八郎という人物がいましたが、彼は当時の社会がイメージしていた「オタクの姿」をある意味で体現する存在でもありました。

1980年代という時代の空気を、そのまま閉じ込めたような一冊です。  
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