増補版 松田聖子論 小倉千加子 朝日文庫新刊 2012年刊
増補版 松田聖子論 小倉千加子 朝日文庫新刊 2012年刊
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松田聖子はなぜ社会現象になったのか
社会学として読み解く
松田聖子は還暦を迎えた現在も、なお「アイドル」として第一線を走り続ける、唯一無二の存在だと思います。
彼女が登場してきたときのことは、私にもはっきりと記憶があります。確か小学三年生の頃、ひとつ年上で兄貴分のように慕っていた友人が、突然「俺、聖子が好きやねん」と言って私を家に招き、LPレコードをステレオにかけて聴かせてくれたのです。アイドルなど全く眼中になかった私にとって、それは彼が別の世界へ行ってしまったような衝撃でした。戸惑いながらそのLPを神妙に聴いたことを覚えています。彼がませていたというより、今思えば松田聖子の登場そのものが、まさに社会現象だったのだと思います。
本書で社会学者の小倉千加子は、松田聖子という存在を通して、日本社会の価値観や文化のあり方を読み解こうと試みています。
まず本書で示されるのは、1970年代のスターである山口百恵との対比です。山口百恵が「影」や「悲劇性」をまとった存在だったのに対し、松田聖子は「明るさ」や「かわいらしさ」を前面に出したアイドルでした。この違いは単なる個性の違いではなく、時代の空気や価値観の変化を反映したものだと著者は指摘します。
さらに本書では、松田聖子のイメージがどのように作られていったのかが分析されます。髪型、話し方、表情、そして楽曲の世界観。とりわけ作詞家・松本隆による歌詞は重要な役割を果たしていました。そこには恋や都市の風景、少し背伸びをした少女の感情など、当時の若い女性の感覚が巧みに描き出されています。彼はなぜ、女性の心情をあれほどまでにリアルに言葉にすることができたのでしょうか。
また著者は、松田聖子の人気を1980年代の消費社会の文脈からも読み解きます。テレビ、雑誌、広告といったメディアが急速に拡大する中で、松田聖子はその中心に位置するスターでした。彼女は消費される存在であると同時に、自らのイメージを巧みに演出しながらスターとして生き抜いた主体でもあったのです。
この本の面白さは、単なるアイドル論にとどまらず、女性像、メディア文化、そして消費社会といった広い視点から松田聖子という現象を捉えている点にあります。松田聖子を知ることは、1980年代という時代の空気を知ることでもあります。
アイドルをめぐる文化は、その後のオタク文化やポップカルチャーにも大きな影響を与えました。本書は、松田聖子というスターを入り口に、日本の文化や社会を考えることのできる一冊だと思います。
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