本書は、タイトルを見た瞬間に何かが心に引っかかった人にこそ、手に取ってほしい一冊です。三橋順子は、日本の古代神話から近代に至るまでの史料を丹念に読み解き、さらに現地調査を重ねながら、女装者たちが生きてきた時間と空間を丁寧にすくい上げていきます。
その筆致には、名もなき人々の息遣いや、当時の空気そのものを追体験させる力があります。本書の原点には、ある先輩ホステスの切実な言葉があります。
「誰かが私たちの世界をきちんと記録して残さなければ、私たちはいなかったことになってしまう」。
この言葉に突き動かされ、三橋は「語る」のではなく「記録する」ことを選びました。
神話やシャーマニズムの解釈については、読む側の判断に委ねられる部分もありますが、消えかけた存在を歴史の中に刻み留めようとする情熱が、本書全体を貫いています。
なお、著者の三橋順子は、自らもトランスジェンダー当事者として生きてきた研究者であり、その視線は同情でも断罪でもなく、静かな誠実さに支えられています。すべての人に勧めたい本ではありません。
しかし、この題名に心が止まった人にとっては、忘れがたい一冊になるでしょう。
