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Mの時代  太田出版  1989年刊

Mの時代  太田出版  1989年刊

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80オタク時代文化を『Mの世代』はどう見たか

『Mの世代』は、オタク文化論三部作の二冊目として、1980年代末という転換期の日本社会を、より深い射程から捉え直そうとする対談集です。

一冊目の『おたくの本』が、特定の対象に強い関心を寄せる人々の文化的輪郭を描いた本だとすれば、本書は、そのオタクたちが生きていた時代そのものを問い返します。中心に据えられているのは、幼女連続殺人事件として社会を震撼させた宮崎勤事件ですが、本書の関心は、事件をどのように報じたかというメディア批判そのものよりも、宮崎勤、そして同時代の若者たちが、なぜメディアを居場所として必要としたのかという点に置かれています。

高度消費社会の進行により、子どもが早く大人(労働力)になる必然性は薄れ、強い父権を中心とした家族のあり方は揺らいでいきました。(個人的には強い父権が弱くなることは悪いことではないと思います。むしろ、家庭内での父親の「所在なさ」が顕著になった時期ではないかと思います)、かつて子どもから大人へと移行する装置として機能していた通過儀礼は機能不全に陥り、若者たちは確かな出口を見失っていきます。そうしたなかで、テレビ、ビデオ、雑誌、ゲームといったメディア空間は、居場所の代替装置として機能するようになります。しかしそこには、規範としての父権も、無条件に包み込む母性的な保護も存在していません。本書は、この宙吊りの状態を、逸脱や病理としてではなく、時代が生み出した必然として言語化しようと試みています。

対談の後半では、家族のあり方が大きな論点となります。大塚英志は、天皇家に象徴されるような超越的な父権の再構築に一定の可能性を見出そうとし、一方で中森明夫は、すでに父権は崩壊しており、その前提に立つべきだと主張します。両者の見解は最後まで交わることはありませんが、そのすれ違いこそが重要です。血縁に基づく家族や通過儀礼、権威の所在を、これからの社会はいかに持ち得るのか。本書は明確な答えを示すことなく、その問いを90年代以降、そして現在へと投げ返しています。『Mの世代』は、オタク文化という枠を越えて、私たちが生きる社会の基盤を問い直す、きわめて重要な問題提起の書です。

私自身、少年期から思春期を80年代に過ごしました。当時の中学校は、暴力やいじめ、学級崩壊などでかなり荒れていた記憶があります。最近ではドラマ『不適切にもほどがある!』が話題になりましたが、あの時代はまさに昭和の終わり、昭和的価値観の行き詰まりや見直しが始まった時期でもあったように思います。振り返ってみると、不安と混乱が入り混じった時代――それが私にとっての80年代の記憶です。

80年代の空気を追体験できる一冊です。

 

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